「…簡単に…言うなよ…」

 ボソリと呟いたのは瑠威である。

「そんな風に簡単に言うな!アンタら医者は、いつもそうだ。オレだって、治療が必要な事は解っている…だけど!」

「だけど?」

 思春期特有の頑是無(ガンゼナ)さで噛み付いて来る少年を、祐介は冷静に受け止めた。

「だけど…どうしたんだい、瑠威?」

「…だけど、幾ら努力しても報われない事だって、世の中には沢山あるだろう?この病気もそうだ。治療したところで、完治する訳じゃない。だったら、何もしなくても同じ事だ。」

 瑠威は自分の体を掻き抱く様にしながら、弱々しく呟いた。

「オレは、一生この病気と付き合って行くんだ。好きで、こんな体に生まれついた訳じゃないのに、あれもこれもと制限を受ける。それが、無性に腹が立つ─…。」

 あぁ…。
彼を苛立たせていたのは、これか。

虚弱な身体と、思いも寄らぬ変化──。
それを理由に、行動の制限を受ける自分に、瑠威は激しく憤っている。

小刻みに震える髪の毛。
啜り泣く度に上下する細い肩。

華奢な佇まいは、今にも消えてしまいそうで…ボクは思わず一歩踏み出した。

「瑠威…」

 近付いて、肩に手を伸ばした──その時である。

「触るな!」