「それで?? 先生の診断は?」

挑発的な態度で答えを促す瑠威。
祐介の口元が僅かに綻(ホコロ)んだ。

「ギャラリーの前だけど…。言っちゃって良いのかな?」

「守秘義務ってやつ?誰が聞いていようと構わないよ。寧(ムシ)ろ、公表して欲しい位だ。折角だから、うちの四天にも教えてやってよ。」

「そう。なかなか気丈な患者さんだ。本人たっての希望でもある事だし、お望み通り、皆の前で病名を公表させて貰おう。」

 祐介は、涼しい顔で言った。

「…クラインフェルター症候群。先天的な性染色体異常に因(ヨ)り、男性的な第二次性徴が著しく欠如する病だ。」

 クラインフェルター症候群──?
聞き慣れない病名に、場内は忽ち色めき立った。

一方、瑠威は面白い出し物でも見る様に、パチパチと手を叩いて薄笑いを浮かべている。

「大正解。アンタ、やっぱり優秀な医者なんだな。よく解っているじゃない。」

 小馬鹿にした様に顎を聳(ソビ)やかすと、少年当主は挑む様な眼差しで、祐介を下から覗き込んだ。

「まぁ、知っていて当前か。親父から、少しは話を聞いているんだろう?」

「あぁ…。右京さんには、以前から、キミの特異体質について相談を受けていた。キミさえ、その気になってくれたら、僕がセカンド・オピニオンになっても良いと思っていたんだけれどね…。いつになったら来院してくれるのかな??」

「冗談じゃないよ。身内に相談なんて出来るか。恥ずかしいだけだろう?三毛猫のオスと同じ病気なんてさ。」

「そんな風に云うもんじゃないよ。その若さで自虐に走るのは早い。悲劇の主人公を気取る様な振る舞いは、医師としても感心しないね。」

「……。」

 瑠威のひねくれた物言いを、鋭い切り返しで黙らせる祐介。

そもそも、毒舌で彼に敵う筈がない。
祐介の方が、数段上手だ。