大丈夫…大丈夫。

ちゃんと話せば──彼の悩みと一緒に向き合う気持ちで接すれば、きっと瑠威は解ってくれる。

 自分自身に、何度もそう言い利かせながら、ボクは静かに道場内に足を踏み入れた。

「瑠威。」
「───」

声を掛けてみたが、やはり彼の返事は無く…ボクは次の手段を講じるしかなかった。

 瑠威と自分とを隔てている、一振りの日本刀。真新しい革帯を巻いた柄を、そっと手に取る。

──その刹那。
真剣特有の重みが、ズシリと伝わった。
柄の革肌が、しっくり掌に馴染む。

輝きを放つ刀身。
龍の透かしが入った鐔(ツバ)。

鍛え抜かれた業物(ワザモノ)の迫力が、握る柄から伝わって来る。

「いい刀だな。」

 呟くと同時に、ボクは抜き身を構えて、思い切り振り下ろした。ブン!と音を立てて、鋒(キッサキ)が瑠威に迫る。

 バシ───!

刃が髪に触れるか否かの瀬戸際で、瑠威はそれを白刃取りにした。刀身を両手に挟み、そのまま鋒(キッサキ)を横に倒す。

「何のつもり、これ?」

 剣呑な声と共に、やっと瑠威がボクを向いた。

「白刃取り、お見事。」

「何言ってんの?アンタ、今、寸止めしようか迷っただろう??」

「解った?」

「解るよ。剣気が甘くて、振り遅れていた。今のタイミングなら、片手で鎬(シノギ)を叩き落とせるよ、ゆるゆるだもん。薙って案外、鈍いんじゃないの?」

「言うね。」

 ボクが笑うと、瑠威は冷ややかな視線を返して答えた。

「何の用?禅定(ゼンジョウ)の邪魔なんだけど。」
「君とサシで話がしたい。」
「………」

 その申し出を、彼は断らなかった。