「風の力は、当主直系の血筋にしか現れないの。中でも、瑠威は凄いんだ。歴代の当主で一番、強いんだよ。」

「天才って事?」
「うん。でも今は巧く遣(ツカ)えてない。」
「どうして?」

…そう尋ねると。
瑠佳は、ボクに顔を擦り付ける様にしてクスンと鼻を啜り上げた。

「瑠威は体が弱いから。沢山、力を使うと倒れちゃうの。だから、お祖父ちゃんが、瑠威の力を半分だけ、あたしに遷(ウツ)し変えたの…」

「宗吉じいちゃんが、そんな事を?」

 瑠佳は、コクリと頷いた。

先々代の当主・神崎宗吉は、薬子を鎮めた一件以来、すっかり顔馴染みになっていた。あの宗吉じいちゃんが、瑠威の力を瑠佳に分け与えた『張本人』なのか──。

「じゃあ…瑠威の中には、本来の半分の力しか残っていないんだね?」

「うん。でもそうしないと、瑠威の命が保(モ)たないって。あたしには元々、力なんて無かったの。さっきの『術』だって、瑠威が『そう望んだから』出来ただけ。あたしは、瑠威の力を一時的に預かる『容れ物』に過ぎない…」

 みるみる内に、瑠佳の大きな瞳が涙で滲んだ。

小さな肩。細いうなじ。
華奢な体が、こんなに震えている…。

「あたし、行者になんかなりたくない。普通の女の子で良いの。だけど…!」

 切羽詰まった様子で縋がる少女。
…まだ十三歳の瑠佳には、課せられたものが、あまりにも重過ぎる。

「良く解ったよ。話してくれて有難う。」

 ボクは、思わず瑠佳を抱き締めていた。

「辛かったね、瑠佳。君の立場は解った。独りで抱えていたんだね。良く話してくれた。」

「うん。」
「瑠威は…この事を知っているの?」

「ううん。まだ言ってない。あたしもパパもママも、お祖父ちゃんも。本当の事は、誰も言ってない筈…だけど。瑠威は勘が良いし、あたしと違って頭も良いから…自分でいろいろ調べて、もう全部知っているのかも知れない…」

 そうか─…。
それなら、彼の言動にも説明がつく。
ボクは、瑠佳の瞳を覗き込んで言った。

「ボクが瑠威と話してみるよ。きっと解って貰うから。一緒に解決の道を考えよう、ね?」

 すると、少女はコクリと頷いた。