意識を手離してから、一体どれ程の時間が経ったのだろう?

目覚めると、ボクは簡素なベッドの上に横倒わっていた。

 たっぷり糊が利いたシーツ。
硬めの枕と、微かに漂うアルコール臭。
壁も床も天井も、何処もかしこも真っ白だ。

 (…此処は?)

右腕に点滴のカテーテルが突き刺さっているのを見て、ボクは漸く、自分の措かれた状況を理解した。

 あぁ、此処は病院の個室だ。
そう言えば──暑さの剰り路上で倒れて、見知らぬ二人に救われたのだ。

ボクを運んだ長身の男と、アニメ声の女の子…彼等は、想像していた様な悪党ではなかった。

一瞬とは言え、他人の親切を疑った自分が情けない。

 ボクは、小さく溜め息を吐いた。

顔も名前も知らない恩人──。
記憶しているのは、女の子の特徴的な声だけだ。

あの時、ちゃんと御礼が言えなかった事が、猛烈に悔やまれる。せめて名前だけでも解れば良いのだが…。

「あら。いいのよ、御礼なんて。」

 不意に、聞き覚えのあるアニメ声が答えた。

「とにかく今は安静が一番!御礼なら、後ほどタップリして貰うわ。あなたが元気になったら、ね?」

「え…!?」

 ──声がした方へ視線を巡らせれば、見知らぬ女の子が、ドアの前に立っていた。

呆気に取られるボクを尻目に、彼女はツカツカと歩み寄り、ベッドサイドの椅子にチョコンと腰掛ける。

 パチパチと瞬きする二重瞼の大きな目。
ほんのり薔薇色に染まった頬。ぷるんと潤んだ唇が、苺ゼリーの様に輝いている。

『可愛い』という誉め言葉が、当たり前の様に、しっくり馴染む女の子だ。

年齢的には、十代後半くらいだろうか?
華やかに着飾った姿は、どこか現実離れしていて、まるで3Dアニメを観ている様である。

 リボンとレースが幾重にも重なった、淡い水色のワンピース。

高くツインテールに結わえた栗色の髪。
細い首には、薔薇の花飾りが着いた真珠のチョーカーが巻かれている。

 一体これは、何のコスプレだろう?
漂う存在感と、奇抜なファッションセンスに度肝を抜かれて、咄嗟に言葉が出ない。

今のボクに解るのは、彼女が徒者(タダモノ)ではないという事だけだ。