そんな遣り取りをしていると、先を行く一慶が道場の入口前でピタリと足を止めた。

「どうしたの?」

 怪訝に思って近付けば、一慶は、顎をしゃくって道場の中を示す。促された先を目で辿ると、見覚えのある姿があった。

「瑠佳?」

 神崎瑠佳が居る。
不安げに佇む小さな背中…。
何かを一心に見つめている。

「お前、行って来い。」

小声で囁くと、一慶は肩でグイとボクを押した。

「え?…ぇ、あ──っ!」

 強引に押し出されて、ボクはヨロヨロと前に踏み出す。

(ちょ…、一慶!)

 振り向いて抗議の視線を送ると、彼は高慢に顎をしゃくって、頻(シキ)りにボクを促した。

(いいから、行けって!)
(でも…)

(早く!!)
(……)

 何やら釈然としなかったが、行かなくてはどうにもならない。ボクは意を決して、瑠佳の背後に歩み寄った。

「何をしているの…瑠佳?」

 小さな肩にそっと触れると、瑠佳は飛び上がる様にして此方を振り返った。

「ごめん、驚かせて。」
「なぎ!?…じゃなくて、首座、さま?」

 わざわざ言い直す瑠佳が可愛くて、ボクは思わず吹き出した。

「薙で良いよ。そう呼んで?」
「うん…」

小さく頷くと、瑠佳は再び視線を前に戻した。