…そうして。蔵の前を通り過ぎ、裏庭に廻った處ろで、一慶に会った。

「よぅ、そっちも手ぶらか?」

「一慶も?? 困ったな…何処に行っちゃったんだろう。もう帰っちゃったのかな?」

「いや、それは無い。」

 一慶は、キッパリ言い放った。

「あの年頃は、総じて『天の邪鬼』だ。何しろ、思春期だからな。今頃は、誰かに見付けて欲しくて、ウズウズしているだろうよ。」

 …そうかな?

いや、そうかも知れない。
瑠威は人一倍、神経質な性格だ。
強がった手前、素直に出て来られないのかも知れない。

妙に納得した、その時だった。

 ピリリリリ。

突然けたたましい着信音が鳴り響き、遥が襟元からモバイルフォンを取り出した。

「はいはい、ユウちゃん?? 見付けた?俺達は今、蔵の前。うん。いっちゃんも居るよ。…了解。じゃあ先に行ってるねー。」

 何やら軽い口調で遣り取りした後、ピッと電話を切った遥に、一慶が尋ねた。

「今の、ユウだな?見付けたのか??」

「いや、屋敷内には居ないようだから、此方に合流するって。」

「早っ!祐介、もう調べたの!?」

「恐らく、《天耳通》を使ったんだろう。得意だからな。護法も居るし、邸内の捜索の方が早く済むのは当然だ。」

 えーと…。
一慶の言う《天耳通》ってのは、何だっけ?

首を傾げるボクの頭に、遥が、ぱふ!と手を置く。

「いっちゃんは、本当に説明が雑だねぇ。それじゃあ、薙が解らないよ。」

 そう言うと、遥は穏やかに説明を始めた。

「天耳通は、『聞こえない音を聞く』術なんだ。《天解術》のひとつで、生死に関わらず霊の声や物音を聞く事が出来る…。定められた範囲内での人探しなんかには、とても便利だよ。」

 成程。確かに、それは便利そうだ。
ボクも、そんな術が使えれば良いのに…。
金目にならなければ、今は何も出来ないのだ。

この時程、自分の術力の無さを残念に思った事はない。