屋敷外の北側…裏庭へ続く道へと足を運ぶと、大きな蔵が三つ並んでいた。
その一つに恐々近付いて、重厚な観音扉に触れてみる。古びた漆喰が掌にヒヤリと感じられた途端…何やら嫌な予感に駆られて、ボクは遥を振り仰いだ。
「まさか…この中に居たりしないよね?」
「いや、それは無いよ。だって、ほら。こうして閂(カンヌキ)も鍵も掛っている。」
「だよね、良かった。」
「この中には、歴代の当主の遺品や遺髪(イホツ)が納められているんだ。年に一度の大掃除以外に、扉が開けられることはないよ。興味があるなら、後で見せてあげるけれど?」
「あ…いや、うん…」
ボクは曖昧に、微笑んだ。
遺品に──遺髪、か。見たい様な見たくない様な…
ぼんやり考えながら辺りを見回していると、突然、遥が立ち止まった。
「遥?? どうしたの?」
やけに真剣な…それでいて、どこか照れ臭そうな複雑な表情の遥が、ジッと此方を見ていた。真っ直ぐに見詰める視線にドギマギしながらも、ボクは平静を装って彼に笑い掛ける。
「早く行こうよ。日が暮れちゃう。」
「待って。」
踵を返した途端、手首を掴まれた。
そのまま、クイッと引き寄せられる。
「あ…」
引っ張られてよろけたところを、不意に抱き竦められた。
「はる…」
「ごめん、ちょっとだけ。」
「……」
思い詰めた声と速まる鼓動。
抱き締める腕が一際強くなり、ボクはふと不安になる。
これは本当に、鍵島遥なのだろうか?
まるで縋がる様に、ボクの肩に顔を埋める。
不思議な気分だった。
うなじに掛かる吐息だけが熱い。
「驚かせてごめん…もう少しだけ良い?」
「遥…」
「直ぐに収まるから。もう少しだけ…」
そう云う遥は、泣いていたのかも知れない。声が体が、小刻みに震えて…何かがいつもと違っていた。
その一つに恐々近付いて、重厚な観音扉に触れてみる。古びた漆喰が掌にヒヤリと感じられた途端…何やら嫌な予感に駆られて、ボクは遥を振り仰いだ。
「まさか…この中に居たりしないよね?」
「いや、それは無いよ。だって、ほら。こうして閂(カンヌキ)も鍵も掛っている。」
「だよね、良かった。」
「この中には、歴代の当主の遺品や遺髪(イホツ)が納められているんだ。年に一度の大掃除以外に、扉が開けられることはないよ。興味があるなら、後で見せてあげるけれど?」
「あ…いや、うん…」
ボクは曖昧に、微笑んだ。
遺品に──遺髪、か。見たい様な見たくない様な…
ぼんやり考えながら辺りを見回していると、突然、遥が立ち止まった。
「遥?? どうしたの?」
やけに真剣な…それでいて、どこか照れ臭そうな複雑な表情の遥が、ジッと此方を見ていた。真っ直ぐに見詰める視線にドギマギしながらも、ボクは平静を装って彼に笑い掛ける。
「早く行こうよ。日が暮れちゃう。」
「待って。」
踵を返した途端、手首を掴まれた。
そのまま、クイッと引き寄せられる。
「あ…」
引っ張られてよろけたところを、不意に抱き竦められた。
「はる…」
「ごめん、ちょっとだけ。」
「……」
思い詰めた声と速まる鼓動。
抱き締める腕が一際強くなり、ボクはふと不安になる。
これは本当に、鍵島遥なのだろうか?
まるで縋がる様に、ボクの肩に顔を埋める。
不思議な気分だった。
うなじに掛かる吐息だけが熱い。
「驚かせてごめん…もう少しだけ良い?」
「遥…」
「直ぐに収まるから。もう少しだけ…」
そう云う遥は、泣いていたのかも知れない。声が体が、小刻みに震えて…何かがいつもと違っていた。