…さて。瑠威と瑠佳は、何処だろう?

勝手の解らない屋敷の中で、迷っていなければ良いのだが。

「それは、お前の方だろう?」

 不意に背後で声がした。
振り向いたボクの視線の先には…

「一慶!祐介と遥も!? どうして…」

「どうしてって…お前が、致命的な方向音痴だからに決まっているだろう。迷子になられちゃ困るからな。」

「迷子になんかならないよ!こっ、子供じゃあるまいし!!」

「あぁ?? 良くも言えたな、いけしゃあしゃあと。此処に来た日の事を忘れたか??屋敷に辿り着く前に、道端でノビていたのは何処のどいつだ?」

「あ、あれは…!電車で、ちょっと盗難に合って…。お、おお金が無かったから…仕方なく、歩いて…」

 だが迷わなかったと云えば、嘘になる。ボクは、あの日、向かうべき方向すら見失っていたのだから…。

 少しトーンダウンした處(トコ)ろへ、追い討ちを掛ける様に、祐介が畳み掛ける。

「そうそう。キミ、僕の病院でも迷わなかった?」

「あれは…その…ちょっと生霊に憑かれちゃって…」

「ちょっと盗難に合って、ちょっと生霊に憑かれて?…阿呆か!? お前の『ちょっと』は、スケールがデカ過ぎるんだよ!」

 一慶に、額をコツンと叩かれた。
必死に弁解すればする程、立場が悪くなっていく…。

「まぁまぁ二人とも。そう苛めないであげて?そこが薙の可愛いところじゃない。薙、一緒に探すよ。手分けしよう?」

遥がフォローしてくれて助かった。
確かに、一人で探すには手に余る広さだ。

 甲本の総本家は、本当に広い。

客間や小部屋は数え切れない程あるし、屋根裏部屋や物置、蔵まで入れたら、探す場所など無限にある。

 それだけではない。

屋敷の外回りに到っては、森や林に繋がっている場所もある。その気になれば、いつでも行方不明になれる環境だ。裏山で、うっかり遭難する可能性だって、無くもない。

 ボク等は手分けをして、屋敷内外の捜索に当たった。各々に、担当部所を決めて別れる。祐介は屋敷内を、ボクと遥は屋敷の外回りを、一慶は庭園側を受け持った。

 それにしても…。
瑠威が行きそうな所って、何処だろう?
小さな子供相手に『隠れんぼ』をするのとは、訳が違う。

勝手が解らないのは、寧ろボクの方かも知れない。