甲高く叫ぶなり…瑠威は、右京の手を振り払って広間を飛び出して行った。

「瑠威!」

その後を追う様に、瑠佳が出て行く。
そうして…室内に再び静寂が戻った。

「…申し訳ございません、首座さま。男手ひとつで育てたばかりに…躾が…行き届きませんで。」

 右京が、深々と頭を下げる。
ボクは、その言葉尻を捕えて尋ねた。

「男手ひとつ…ですか?」

「はい。妻を失って四年になります。」

 当時の様子を、右京は淡々と語り始めた。

右京の妻・楓は、六星一座でも三本の指に入ると謡われる程の優秀な『癒者』だった。

 その頃。一座は、東北地方の、ある怪異現象の調査を進めており…《風の星》の総指揮で、討伐に出向いていた。

そこで、怪異の元凶が《鈴掛一門》の仕業である事が判明し、壮絶な『合戦』になったのである。

 楓は、その闘いの中で、若い命を散らした。
瑠威と瑠佳は、まだ九歳になったばかりだった。

「鈴掛の行者は、特に《呪咀》に長けています。中でも、蛇霊遣いが放つ遅効性の呪咀は、確実に標的を呪殺出来る。楓は、蛇霊の毒に掛かり倒れました。見る見る内に精神を蝕まれ…その三日後、死に到ったのです。」

 …右京の表情が曇る。

「その呪咀を打ったのが巳美だった?」

ボクの問いに、右京はギュッと目を閉じ頷いた。

「楓の…母親の病んでゆく姿を、瑠威と瑠佳は最期まで看取り、送り出しました。その傷が如何に深いものであったか…私は、正しく理解していなかった。全く…父親失格です。」