黙り込む瑠威。
右京が、その肩にそっと手を置く。

「解るか、瑠威?これが当主と四天の絆だ。こうして互いに高め合う為に、六星一座は在るんだよ。憎悪に駆られて報復に転ずれば、忽ち外法に堕ちてしまう。それでは、鈴掛一門と同じだろう?」

 父に諭された少年は、悔しそうに唇を噛み締めた。今にも泣き出しそうなその顔に…ボクは堪らず声を掛ける。

「瑠威、ボクはね。彼等が犯した罪を、『無かった事にしよう』と言っている訳じゃないんだよ?ただ…人には皆、やり直すチャンスがあると思う。僅かでも、救いを求める気持ちがあるのなら、ボクは誰にでも手を差し延べるよ。」

 …解って欲しい。

憎悪の心では、誰も救えないのだ。
瑠威の魂に訴えるつもりで、ボクは懸命に話し掛ける。

「どんな人間にも《善根》というものがある。巳美ですら、そうだ。あれは《禊》の命令でこなした仕事に過ぎない。彼は彼なりに、過酷な修羅道を歩いて来た。巳美は…出逢った相手が悪かった。巡り合わせが悪かっただけなんだよ。解ってあげて?」

「巡り合わせ…??」

 瑠威は、小馬鹿にした様に反復した。

「じゃあ、運が悪かったら──不幸なら、何をしても許されるわけ?人を殺すのも、全然OKってこと!?」

「瑠威…違う。そういう意味じゃ…」

「綺麗事は沢山だっ!アンタの論理は、上っ面だけだ。単に、手を汚したくないだけだろう?? 言葉だけなら何とでも言えるんだよ!!」

瑠威は、耐え兼ねた様に立ち上がった。

叩き付ける様な皮肉──。
だが。その裏で、必死に涙を堪えているのが解る。

 あぁ…この子は、以前のボクに似ている。
虚勢を張って──張り詰めて、ともすれば失いそうになる自信とプライドを、必死に守ろうとしているのだ。

 そう感じた瞬間──。
妹の瑠佳が、兄の瑠威を窘める様に言った。

「瑠威、もうヤメなよ。こんなの…ただの八つ当たりだよ。」

「八つ当たり!? そう…瑠佳まで、そんな事を言うんだね。解ったよ、もういい。オレはオレで勝手にやらせて貰う!!」