「…行くよ。行けば良いんだろう!?」

 まるで、売り言葉に買い言葉だ。
腹立たしげに踵を返す兄の袖を、妹の瑠佳がキツく握り締めて付いて行く。

少し…不安げな表情で。

 瑠威と瑠佳を見送ると、ボクは二つ目の命令を下した。

「遥。巳美を屋敷に運んでくれる?」
「屋敷に?」

怪訝に復唱する遥。

「何故…俺なの、薙?」

 一瞬の沈黙の後。
ボクは、願いを込めて彼に答えた。

「ボク達は、彼を助けなければならない。命を生かす為に『とても大切なこと』だから…ボクは、遥に頼みたいんだ。」

「───。」

 巳美との間に、何らかの遺恨が有る事は重々承知の上だった。そこを敢えて遥に託したのは、彼自身の怨みや捉われを、今この場で解消して欲しかったからだ。

 遥は、『憎しみ』という名の檻の中にいる。そこから一歩を踏み出さない限り、この先も楽にはなれない。

(…解ってくれるよね、遥?)

 ボクの真摯な祈りを受けて、遥は意を決する様にギュッと目を閉じた。

大きな溜め息と共に、再び目を開けた時…そこには、いつもと変わらぬ朗らかで優しい笑顔があった。

「解った…俺が巳美を連れて行くよ。」
「うん。ありがとう、遥。」