巳美の魂は、ボクの内側に深い傷痕を付けながら、漸く終着点に辿り着いた。

二つの魂…鼓動と鼓動がピタリと重なる。
その瞬間、ジリッと焼ける様な痛みが貫いた。

「ぅ、あっ!」

 大きく身を捩るボクに、烈火が慌てて身を乗り出す。

「薙!おい、どうしたんだよ!?」

ボヤけた視界いっぱいに、彼の心配そうな顔が映った。

「耳元で…叫ばないでよ…烈火。」
「え、あ…。わ、悪りぃ。」

 照れ臭そうに頭を掻く烈火が、やけに可愛らしい。見渡せば…ボクを取り囲む様に、六星の皆が集まっていた。

 巳美は未だ、気を失ったまま横倒わっている。蛇霊を、無理矢理に剥がされた彼のダメージも、相当に大きい筈だ。当分、悪さは出来ないだろう。

「薙。」

 ──いつの間にやって来たのか。
ボクの傍らに一慶が控えていた。

「巳美の魂は、落ち着いたのか?」

「うん、たった今『着床』した。もう同化を始めている。」

「お前の方は大丈夫なのか?」
「うん。問題ない。」

 そうは答えたものの…重苦しい違和感だけは、いつまでも消えなかった。

…巳美春臣…
なんて哀しい魂魄だろう…。

怨みと憎悪が痼(シコリ)の様に凝り固まっていて、心の芯まで冷え切っている──なのに。人が触れると、発火した様に熱を持つのだ。

真織とは、また違う闇を孕んだ…病める魂。

ボクは、期せずして、二つ目の傀儡を手に入れた事になる。前回の分霊から日数を措かずに、二度目の分霊を施すのは、流石にキツかった。

だが、これで終わりではない。
もう一仕事残っている。

 疲労感を堪えながら、ゆるゆると身を起こすと…ボクは、胸元から羯磨(カツマ)のペンダントを掬い上げた。

「出ておいで、テン。」

 ペンダントトップを指で弾くと、白貂の神霊がピョンと飛び出して来る。

テンの体は、また一周り大きくなっていた。真織の狐を喰らってから、神力も増している。

 この蛇霊を喰らえば、益々、大きく強くなるのだろう。それを知ってか、テンは今にも飛び付かんばかりに尻尾を振って、餌が与えられる瞬間を待っている。

「さあ、テン。餌の時間だよ。」

 合図をすると、テンは嬉しそうに一声鳴いて、蛇霊をペロリと平らげた。

当(マサ)に、一瞬の出来事だった。