思えば…物心ついた頃から、親父は出張ばかりしていた。それでも忙しい仕事の合間を縫って、ボクを色々な場所に連れて行ってくれた。

 楽しい筈の小旅行。
…なのに親父は、いつも疲れた顔をしていた。
ボクと目が合う度に、弱々しく笑って見せていたけれど、無理をしているのは明らかで──。
子供ながらに不安で心配で、とても怖かった。

 何がそんなに親父を苦しめていたのか、ボクは知らない。
だが、この窶れ方は尋常じゃあない。

きっと、親父は働き過ぎなのだ。
公務員と家業の両立が、親父を苦しめているのだろう。
ならば、少しでも良いから、親父に楽になって欲しい。元気でいて欲しい。

ボクが『跡継ぎ』になって実家の『家業』を継ぐ事が出来れば、少しは、親父の負担が減るかも知れない。

 狂おしいばかりにそう思い詰めて、ボクは、あらゆる努力をした。
親父に必要とされたい一心だった。