巳美の魂魄の中には、血にまみれた無数の《蛇》が絡み合っていた。

 中でも、一際大きな赤黒い《蛇霊》は、巳美の腹心とも云うべき存在である。

妖力が強く、邪気に満ちており、巳美とのシンクロ率も高い──。

 ボクは、牙を剥いて威嚇するそれに狙いを定めた。持上げた鎌首を躊躇う事無く鷲掴むと、一気に外側へ引き抜く。

 刹那。ズルリと音無き音がして、三つ目の蛇霊が引き摺り出された。

「ぅわあぁぁぁあっ!」

絶叫と共に悶絶する巳美。
抜き取られた蛇霊は、ビチビチと身をくねらせながら、未だ抵抗の構えを見せている。

 それにしても…何と云う異形だろうか?
丸太の様に太い胴。長く鋭い牙。

三つある紅い『目』は爛々と光り、強い邪気を放っている。

 ボクは、九字を切ってそれを縛した。

「臨兵闘者、皆陣列在前!」

途端に、蛇はクタリと萎えて沈黙する。

「薙、凄い!」

 感嘆する紫の声が、直ぐ傍で聞こえた。
我に返ったボクに、蒼摩が空かさず霊視の報告をする。

「──首座さま。この蛇には、共喰いの相が視られます。どうやら、巳美の魂の一部を呑み込んでいる様ですね。」