空気が俄かに緊迫する。

ボクの指先は、直ぐに巳美の魂魄を捉えた。温かなそれを掌にグッと掴み取ると、蛇霊遣いは悲鳴にも似た声を挙げた。

「何、だ!?これは一体…!?」

 何か恐ろしいものでも見る様に、自分の胸を覗き込む巳美。

だがいくら凝視したところで、『肉眼』では、胸に軽く手を置いている様にしか見えていない。

 蛇霊遣いの男は、生まれて初めて感じる痛みに恐怖していた。

「アンタ…一体、何を…して…」
「《分霊》だ、知らないか?」
「分、霊…だと?」

「お前をボクの《傀儡》にする。《蛇》を分けて貰うよ?」

「な…何!?」

 ボクの手が、巳美の内側に滑り込む。
掌で優しく魂魄を包み込めば、彼の熱と脈動が生々しく伝わって来た。

 ドクン…ドクン…ドクン…

規則正しく脈打つ鼓動。
それに呼応する様に、巳美の体が振れている。

「ぅう…っ、くっ…ぁ!」

 魂魄を縛された蛇霊遣いは、体を反らせて身悶えした。脂汗が額から頬へと伝い落ちる。

苦痛に歪む眉間。
堪えても洩れる呻き声。

奢り昂る鈴掛一門の幹部にとって、魂魄を洗いざらい晒け出される《分霊》は、嘸や屈辱的な術であろう。

 だが、容赦はしない──。

彼の畏怖を煽る様に、ボクは、握り締める手に力を込めた。途端に、鍛えた肉体が弓反りになる。

「──苦しいか、巳美?それは、お前の魂魄が血に蓐(ケガ)れているからだ。」

 いつしかボクの声を…体を使って、未知の人格が呼び掛けていた。

歴代の金剛首座達が、力を貸している。
この、哀れな蛇霊遣いを救う為に──。

「待っていろ。その蓐(ケガ)れ…浄めてやる。」

 言葉と同時に、掌に熱が篭った。