「嘘?…おいおい。一体、何を根拠に嘘だなんて言うんだよ?」

 怪訝に片眉を吊り上げるおっちゃんに、ボクは答える。

「…聞いたんだ。生前、親父が、おっちゃんに話していた事を。」

「なんだって?」

「親父は『薙に家業を継がせるつもりは無い』とハッキリ言っていた。その時は何の事やら解らなかったけれど…今、やっと解ったよ。つまり、こういう事だったんだ!」


 途端に、おっちゃんが、苦虫を噛み潰した様な顔になる。

「……いつの話だ、それ?」

「覚えていないの?十三年前…ボクが小学校に入ったばかりの頃だよ。おっちゃんが泊まりに来た日の夜!」


おっちゃんは『あちゃー』と呻いて額を押さえた。

「お前、あれを聞いてたの?」

 ボクは小さく頷いた。

憶えている。あの時、親父が話していた事は…今でもハッキリと。

あの夜。親父は、こう言ったんだ。

『薙に跡目は継がせない。二十歳になる前に、この家から出す。アイツに家業を継がせるつもりはない』

 ボクは未だほんの子供だったけれど。
この言葉を聞いて、少なからずショックを受けた。

ボクは親父に期待されていない。
望まれてもいない。
それが悔しくて哀しくて──だから勉強もスポーツもムキになって頑張った。親父が望むような子供になれば、きっと喜んで貰える。

もっと愛して貰える──そう信じて。