皆の制止の声も聞かず、ボクは巳美に歩み寄った。

上体を起こし、グッタリと二枚岩に寄り掛かる蛇霊遣いの男は、苦し気な息の下から、不敵な笑みを浮かべている。

…そうして。ボクの顔を見るや、徐ろに内ポケットに手を差し入れた。

 皆の顔に、ピリリと緊張が走る。

もしここで巳美が飛び道具でも取り出す様であれば、彼は再び一斉攻撃を受ける事になるだろう…だが。

その危険は思わぬ形で回避された。

 巳美が取り出したのは、メンソールの煙草と安物のライターだった。震える手で口の端に煙草を咥えると、何度も何度もライターを摺り、やっとの思いで火を点ける。

 痣の浮いた口元から弱々しく煙を吐いて、巳美は言った。

「…あぁ。わざわざご足労頂いて申し訳ないね、首座さま?」

「まだ、冗談が言える元気があるんだな。」

「ははっ!可愛い顔してキツイなぁ。まぁ、気の強い女は嫌いじゃないがね。」

 この男は…。
一体どういうつもりなんだろう?

たった一人で敵陣に乗り込んで来て、顔も体も怪我でボロボロになっている。こうなる事が解っていながら、敢えて暴挙に出るとは…彼の目的は何なのだ?

 ボクは、巳美の傍らに片膝を着いて覗き込んだ。

大胆不敵な蛇霊遣いは、荒く息を吐きながらも、強がる様に煙草を燻(クユ)らし、嘯(ウソブ)いている。

 先に口火を切ったのは、ボクの方だった。

「くちなわの御鏡…と言ったな?薬子の霊を魔鏡に移し換えたのは、お前か??」

「そうだと言ったら?」

「何故そんな事をしたのか、理由が知りたい。お前達の目的は何だ??」

「目的…」

 巳美は鼻白んだ様に双眸を眇めた。
それから、クックッと引き吊り笑いをして言う。

「そんなもん、決まっているだろう?天魔の使い勝手を試す為だよ。」

「…試す?」