その時だった。
突然、巳美の高笑が響き渡ったのは。

「ふ…ふふ。はははっ!あははははは!!」

 玉砂利の上にゴロリと仰向けになると、額に手を当て、ヒィヒィと爆笑する鈴掛の蛇霊遣い。その狂態を、ボク等は無言で見詰めていた。

 一頻(ヒトシキ)り笑った後──。
目元を拭いながら、巳美が言う。

「いやぁ、強い強い!全く噂に違わぬ強さだよ。六星一座さま勢揃いの巻…ってね。まさか、ここまで熱い歓迎を受けるとは思わなかったぜ。」

 そうして、大義そうに上体を起こすや、不敵な笑みを浮かべてボクを見上げた。

「…首座さま。『くちなわの御鏡(ミカガミ)』は、お役に立ちましたか?」

「え…?」

「あれは、俺からアンタへのプレゼントだよ。天魔が入った蛇の鏡…。」

「──!」

 絶句するボクを見て、巳美はくつくつと肩を震わせた。

「その顔を見る限り、プレゼントはお気に召した様だな?天魔にしては格下だったが、良い余興になったろう??」

 そう云うと、また一頻り大笑する。
やはり──この男が絡んでいたのか。

目的の為には、どんな残虐な手段も選ばない鈴掛一門。

怨霊どころか、天魔の気配すら綺麗に消してしまえる程の完璧主義──それが、何故わざわざ痕跡を残す様な真似をしたのか?

 不可解な行動の謎が、漸く解けた。
あれは、六星行者に対する挑戦状だ。
《金剛首座》の力を試す為の、デモンストレーションだったのだ。

 蒼摩の制止も聞かず、ボクは前へ進み出た。
回廊を挟んで、巳美の視線を受け止める。
この感覚には憶えがあった。

 式典が執行されている間、何度となく感じた、あの凍りつく様な視線の主は──

「お前だったのか、巳美。」

 巳美はニヤリと口角を吊り上げた。

「もっと良く顔を見せてよ、首座さま。俺に近付く勇気あるかい?」

「勿論だ。今、そちらへ行ってやる。」
「薙、やめろ来るな!」

 烈火が、慌てて声を挙げる。
だが、ボクの怒りは収まらなかった。

 無惨に焼け落ちた回廊の階(キザハシ)…。
焦げたその手摺りの切れ目から、フワリと中庭に飛び降りる。