六星行者【一之卷】~銀翼の天子

 ガシャン!
バキ───ッ!!

其処ら中で、物の壊れる音がする。
もう何もかもが、滅茶苦茶だ。

「俺からの祝いの品だ!受け取れ!!」

勝ち誇った様に哄笑する巳美。

 ──その時。

豪々と吹き付ける風を切り裂く様に、回廊のそちこちで真言が唱えられた。

「オン、インダラヤ、ソワカ!」
「オン、ホラカンマネイ、ソワカ!」
「オン、エンマヤ、ソワカ!」

一慶、遥、苺が一斉に印を結んで叫んだ。

「オン、アギャノウエイ、ソワカ!」
「オン、バロダヤ、ソワカ!」

 中庭では烈火が、西の対では瑠威と瑠佳が陀羅尼(ダラニ)を唱える。

「オン、バヤベイ、ソワカ!」
「オン、ビリチエイ、ソワカ!」

 密印を結んだまま、回廊の左右から姿を表したのは、向坂紫と姫宮蒼摩だった。

六つの星が集結し、反撃が始まる。
火が水が、風が、雷が…禍々しい邪気を圧し返して行く。

 流石の巳美も、これには堪え切れなかった。
遂には、術ごと後ろに弾き跳ばされる。

「──ぐは!」

ドスッ!と鈍い音がして、巳美の体が二枚岩に叩き付けられた。強(シタタ)か背を打った蛇霊遣いは、ゴボッと口から血を吐いて、その場にズルリと崩れ落ちる。

 大きく息を吐く肩。

四方八方から陀羅尼(ダラニ)の喝破力(カッパリキ)を浴びた巳美は、全身に火傷の様な怪我を負っている。

 篝は、ツイと前に出て霊縛咒(レイバクジュ)を唱えた。

「オン、キリキリ!」

 途端に、ビクリと身を強張らせる巳美。
そこへ、祐介が更に畳み掛ける。

「オン、キリウンキャク、ウン!」

 二人が刀印を結んだところで、霊縛は完成した。 巳美は、ゆっくりと前に傾ぎ──やがて、顔面から倒れ伏した。

 派手に飛び散る玉砂利。
鈴掛の蛇霊遣いは、それきりピクリとも動かなくなった。