六星行者【一之卷】~銀翼の天子

「確かに。だが遊びにセオリーを持ち出すのは、少々ヤボだ。『殺し合い』という名の『お遊び』は、もっと本気で楽しまなくちゃな。」

「何だと!?」

「さぁ…次は本気で来てくれよ?ここからが本番なんだからさ!」

 巳美は、レンズが片方割れた眼鏡を乱暴に投げ捨てた。頬に一筋流れた血の雫を親指で拭って、ペロリと舐める。

「楽しい『お遊戯』の時間だ。」

 中庭に生温い風が吹き抜けた。
刹那、高らかに咒を唱える声が上がる。

「オン、イジャナヤ、ソワカ!」

ぶゎん!

空間が歪む様な、強い衝撃波がボク等を襲った。

ビュッ!
ザザザザ──!!

 熱風の刃が周囲に飛び散り、楓の葉がバラバラと千切れる。

邪念を編み込んだ風の礫(ツブテ)。
これは、鎌鼬(カマイタチ)だ。

「頭を下げて!」

 祐介は、着物の袖で包み込む様にボクを庇った。だが、次の瞬間…シュッ!という風切り音と共に、彼の袖が大きく裂けた。花弁の様に鮮血が舞い、ボクの頬を濡らす。

「祐介、腕が…!」
「大丈夫だ。キミは動くな。」

 彼の二の腕に、刀傷の様な赤い裂目が見えた。夥(オビタダ)しい出血に、ボクの体が震える。

だけど、それに構う様子も無く、祐介はボクを抱きかかえる様にして、壁際へと導いた。