六星行者【一之卷】~銀翼の天子

見えない蛇にギリギリと絞めら上げられ、必死にもがく姿は直視に耐えない。

 だが──ボクの心配を他所に、烈火は、震える手で印を結んだ。両手を交差して小指を絡め…同じく、両の人差し指を立てる。そうして、苦しい息の下から真言を唱えた。

「オン…ソンバニソンバ…ウン・バザラ…ウンパッタ!」

ゴオォッ!

 陀羅尼(ダラニ)の発動と共に、地鳴りが聞こえた。

石燈籠がグラグラ揺れて、天辺の笠が地面に落ちる。地鳴りは徐々に強さを増し…遂には、暴風となって巳美の体を吹き飛ばした。

「うぁ!」

 短い悲鳴と共に、蛇霊遣いが地面に叩き付けられる。緊縛法は破れ、烈火は漸く解放された。

「凄い…!」

思わず呻いたボクに、祐介が云う。

「あれは、降三世夜叉明王(ゴウサンゼヤシャミョウオウ)の真言だ。大自在天の術には、これが一番効く。暴風は、大自在天法を施した術者への『呪咀返し』が成就した証しなんだ。シヴァ神は、暴風(ルドラ)の神とも言われているからね。」

「ルドラの神…」

「薙、良く覚えておいて。これが六星行者の闘い方だ。」

 ボクは、小さく頷くしかなかった。
何よりも、彼等の強さに驚いてしまう。

皆、烈火の実力を知ってていて──だからこそ、余計な手出しをしなかったのだ。