「まぁ、良いや…。お喋りはこれぐらいにして、当初の目的を果たすとするか。甲本さん、アンタだけは死なない程度に留めて措いてやるよ。その才能を失うのは惜しい。蛇の毒で手懐けて、死ぬまで俺だけの為に、ピアノを弾かせてやる。」

 言いたい放題を言い尽くすと──巳美は素早く印を結んだ。早口で真言を唱えて、虚空から雷を喚ぶ。

「オン、インダラヤ、ソワカ!」

バリバリ──ッ!

 閃光が走り、目の前で火柱が上がった。
巳美が放った雷撃が、回廊の階(キザハシ)を一瞬で焼き払う。

「下がって、薙。」

 祐介が、ボクを庇う様に壁際へ追い遣った。それと入れ替わる様に、烈火が前に出る。

「てめぇ──危ねぇじゃねぇか!いきなり乱入して、人んち燃してんじゃねぇよ!! 放火魔か??」

 巳美は、ニヤリと笑ってそれに答える。

「あぁゴメン。火遊びは、アンタの専売特許だったな?折角だから、本格派のお家芸を見せてくれよ…なぁ、《火の星》の紅蓮殿??」

「何だと、この野郎!?」

 烈火は、足袋のまま中庭に飛び降りた。
巳美の前に進み出て、仁王立ちに対峙する。

「そんなに構って欲しいなら、挑発に乗ってやるよ。後悔すんなよ、蛇男!!」

「ふふっ。いいねぇ、やる気満々で。好きだよ、そういうの。」

 ザッと玉砂利を踏んで、巳美が前に出た。烈火を翻弄する様に、拳を一発繰り出すと、次の瞬間、即座に印を組み陀羅尼を唱える。

「オン、マケイシバラヤ、ソワカ!」
「何──っ!?」

 巳美の唱える真言で、烈火の動きがピタリと止まった。…と、突然両手で首を掻き毟り、地べたに転がって、もがき始める。

「う──くっ…ふ…っ!」
「烈火!」

 苦痛に悶えて、のた打ち回る火の当主。
思わず身を乗り出したボクを、祐介が止めた。

「緊縛法だ。首を絞められている。」

 緊縛法?
首を──絞められている??
どういう事だ、それらしき物は何も見えないのに!?

「蛇霊だよ。蛇の神霊が、烈火くんを絞め上げている。大自在天の術は、巳美の最も得意とするところだ。」

「…大自在天…?」