男は面白そうに、ニヤリと口角の片端を吊り上げた。

「これはこれは…可愛い事をして下さる。《風》のご当主達かな?」

 言い終わるや否や、男はスイと片手を上げて、真言を唱えた。

「オン、バヤベイ、ソワカ!」

 忽然と現れた竜巻が風の壁を切り裂く。
得意の技を、同じ属性の風に封じられて…瑠威と瑠佳は、驚愕に目を見開いた。

「悪いねぇ、蝶々さん達。風のカーテン位じゃ、俺は止められないよ?」

 息を飲む風の双子に、揶揄を込めた一蔑を投げると、男は再び此処を向く。

「仲が好いんだねぇ、アンタ達。おや?そっちの彼は何処かで見た顔だなぁ。俺を覚えているか?式神遣いの兄さん??」

 男は、下から覗き込む様に遥の顔を窺った。
黒いフレームの眼鏡の向こうで、切長の目が妖しく光る。秋の陽光を浴びた短い髪が、怪しく風に靡いた。

 遥は、回廊の上から真っ直ぐに男を見下して言う。

「生きていたのか、巳美春臣。」

「そう、生きていたんだよ。アンタともう一度遊びたくてね。」

 巳美春臣??
では、この男が鈴掛一門の次席頭領──!?