取材陣と招待客らが三々五々帰路に着くと、屋敷は忽ち、いつもの静けさを取り戻した。

広大な敷地いっぱいに詰めかけた門下や檀家も、記念の品を受け取るや、まるで蜘蛛の子を散らした様に下山してゆく。

 今や邸内に残っているのは、六星行者とその関係者だけ…と、云っても。一座自体が大所帯なので、かなりの人数になる。この後は例に依って、どんちゃん騒ぎの宴席となる訳だが…この支度が、また大変だった。

 護法と家政婦が総出で、母屋の広間を全開放し、酒席を調える。総勢百数十名分の祝い膳と酒が振る舞われるのだから二つある厨房も、大忙しだ。

 今日は、嘸(サゾ)かし盛り上る事だろう。
何しろ、六星一座は酒豪の集まりだ。

大虎小虎が跋扈(バッコ)する光景を想像して、ボクはブルリと身震いする。

 あの広い会場いっぱいに、酩酊(メイテイ)した有象無象がクダを巻くのか…。考えるだに恐ろしい。

「はぁ…」

 取材を済ませ、本堂から母屋へと向かう回廊で…ボクは盛大に溜め息を吐いた。すると、傍らに居た一慶が面白そうにボクを覗き込んで言う。

「どうした、薙?顔が悪いぞ。」
「顔色がだろ、顔色がっ!」

 下らない揶揄に、思わず乗ってしまう自分が哀しい。精神疲労倍増だ。うんざり肩を落とした途端、隣でクスッと忍び笑いが聞こえた。

「今日は朝から大忙しでしたもの。お疲れ様です、首座さま。」

明るい声で励ますのは、萌黄色の正装をした篝だ。

未だ体調の優れない彼女は、別室からモニター画面を通じて、この聖儀を見守ってくれた。式典が終わると、自ら身を起こして正装し…こうして傍に寄り添ってくれる。

優しい子だ。秋風に揺れるコスモスの様な、可憐な微笑みが愛らしい。

「ありがとう。優しいね、篝は。君と居ると本当に癒されるよ。どっかの誰かさんとは大違い。」

「そんな…」

 ポッと頬染める仕草が、可愛い。
心無しか、今日は顔色も良い様だ。

「おーお。いいねぇ、若い者は。昼間っから、イチャイチャしやがって。」

 茶化す様に合の手を入れると、一慶は小声でボクに耳打ちした。

「禁断の愛は順調の様だな。」

 その刹那、ボクのエルボーが彼の鳩尾(ミゾオチ)に沈む。渾身の一撃を喰らった一慶は、うっと呻いて腹を押さえ、その場に蹲まった。

「…薙…お前…っ!!」

思いの外、綺麗に決まった肘鉄砲。
恐らく相当な痛みであろうが構うもんか。
一慶など置き去りにしてやる。