その後は粛々と恙無く、式典は進められた。

だけど──何だろう？
先程から、妙に気になる視線がある。
参座者に紛れて、此方を威嚇する者が在る。

　剥き出しの敵意と、あからさまな害意。
射抜く様な眼差しが、容赦無くボクに注がれる。

一体、誰──？

　気にはなるけれど、今はそれを詮索している時間が無かった。背中に悪感を覚えながらも、何も起こらぬ事を念じて、ボクは神聖な儀式に臨む。

「《金の星》当主並びに第五六一世首座、甲本薙。汝に、《金剛》の法名を授ける。」

　導師のおっちゃんに名を呼ばれて、ボクは潔く前に進んだ。膝を付いて合掌すると、頭に五鈷杵《ごこしょ》が当てられる。

　──途端に。

ボクの魂の奥深く、《金剛》の名が刻まれるのを感じた。揺らいでいた心がスッと落ち着き、不動の祈りに変わる。

　まるで、自分の中に《仏》を迎え入れた様な気分だ。神聖で清廉な想いだけが、五体を満たす。

覚悟が定まった…とでも言おうか。
体の奥底から新たな力が湧いてくるのを感じた。

これが『名を打ち込む』という事なのだ。

　《法名》を頂いた者は、同じ《名》を頂いた先祖達と、霊的に繋がる事が可能となる。…つまり。ボクは、過去世の《金剛》達と、容易にコンタクト出来る様になったのだ。

　これで、いざと云う時にも、祖先に力を分けて貰える。実戦経験が少ない、ボクの様な駆出しの行者にとって、これ程心強い味方は無い。