「おっちゃん…」

 込み上げる怒りをグッと飲み下して、ボクは訊ねる。

「新しい首座って、どういう事?」
「あー…えっと、それは…だなぁ。」

「この家を──首座を継げっていうの?ボクの意志も聞かずに!?」

「まぁ…簡単に言えばそうなる、かな?」
「ちょっと待った!」

その一言に、ボクの中の何かが、ふつりと切れた。

「そんな事、簡単に言わないでよ!冗談だろう!? 聞いていないよ、こんなの!!」

ズズ────。

ボクの怒声と、苺の茶を啜り上げる音が偶然に重なる。不穏な空気が漂う中、おっちゃんだけが、ひたすら慌てふためいていた。

「お…落ち着け、薙。な!?」

「これが落ち着いていられるか!! 突然呼び出した本当の理由が、これ!? 酷いよ、おっちゃん!こんなの闇討ちじゃないか!」

「薙、すまん。とにかく落ち着いて話を」
「嫌だ!聞きたくない、帰る!!」

 怒りに任せて、叫んだ途端──。
一慶がタン!と湯呑を置いて、冷ややかにボクを見た。

「話も聞かずに逃げ出すのか?」
「何!?」

「昨日から、ずっとそうじゃないか!!お前だって、散々苦労して此処まで来たんだろう?先ずは話を全部聞くべきじゃないのか?一通り事情を理解してから、泣くなりキレるなりしてくれ。」

「嫌だっ!」
「何?」

「聞いたところで結果は同じだ!どうせ、ボクに拒否権は無いんだろう?!」