ボクは徐ろに壇を降りると、参座者全員に訴える様に、深々と頭を下げた。

途端に、会場から大きなどよめきが起きる。

 ボクの突飛な行動に、皆が呆気に取られた。式典次第にも、こうした流れは予定されていない。だが…どうしても、そうせずにはいられなかった。

 会場のざわめきを聞きながら、ゆるゆると頭を上げれば、再び激しいフラッシュの嵐が起きる。

忙しく明滅する光。
シャッターを切る音が耳障りだ。
これから《聖儀》を承けようというのに、この有り様では集中出来ない。

 ボクは、無作法な取材陣の行為を制するように、ツイと片手を挙げて見せた。

『静かに──邪魔しないで』

 心の中で強く強く呼び掛けた途端、堂内が水を打った様に静かになる。

誰一人、物音を立てる者は無い。
勿論、フラッシュの瞬きも無い。

 公の場で、初めて披露した《他心通》。
だが、ボクの意思は確実に、皆に伝わった様だった。

会場が完全に鎮まった事を確認してから、ボクは一礼して式典に戻る。

 ──そして、この後も。
全ての儀式が終わるまで、写真撮影が行われる事は一切無かった。