「お気持ちは御察しします。僕も朝から、ウンザリですよ。一座の儀式は大袈裟で困ります。サクサク終わらせちゃって、お互い早く楽になりましょう。」

 …その時である。

物静かに窘《とが》め立てる声がしたのは。

「よしなさい蒼摩。不遜だよ、尊い儀式をそんな風に云うのは。」

見れば、シャープな顔立ちの男性が涼やかに微笑んでいる。

「…貴方が、水の…?」

「はい。《水の星》の北天を相努めます、水嶌浬《みずしまかいり》と申します。以後、宜しく御見知りおき下さいませ。御挨拶が遅くなりまして誠に申し訳ございません。新しい当主は単独行動が多く、なかなか我々を使い熟《こな》してくれないものですから…今まで、御目通りも叶いませんでした。」

 そう言うと、蒼摩の肩をポンと叩き…

「君の性格は熟知しているつもりだが、堪《こら》え性が無いのは感心しないな。これからは、こういう我慢も必要だよ、蒼摩。」

「………。」

 これを聞いた蒼摩は、天を仰いで盛大な溜め息を吐いた。

 《水の星》の北天、水嶌 浬(ミズシマカイリ)──。

縁無し眼鏡の奥で細められる切れ長な眼や、若さに似合わぬ冷静な物腰から、一目で切れ者と判る。

その上、かなりの毒舌家だ。
特に蒼摩に対しては、容赦無い。
これでもかとばかりに皮肉を並べ立てる。