顔色を無くすボクにはお構い無しで、一慶と苺は言い争いを始めた。暫し不毛な舌戦が続く。見掛けに寄らず毒舌な一慶が、圧倒的に優勢だ。とうとう苺は、プウと頬を膨らませてしまう。

「なによぅ~!そんな事、今言わなくても良いじゃない!一慶の馬鹿、鬼、変態!!」

「変態は、お前だろ??」
「何を~!?」

苺は今にも飛び掛りそうになっている。一触即発の状況なのに、祐介は知らん顔だ。苺の扱いには慣れているらしいが、放って措いても良いのだろうか?

 いや…それはさておき、だ。
先程、聞き捨てならない言葉が──

「男って…?」

 ボクの問い掛けに、全員が沈黙した。

「どういう事? つまり苺は、おと」
「さて、と。大トリはお前だぞ、薙?」

 突然、おっちゃんがボクの言葉を遮る。
いや、はぐらかされたのか?

わざとらしい事この上無いが、流れ的に、どうやら次はボクの番らしい。有無を言わさぬこの空気からして、拒否権は無さそうだ。

 仕方がない。
名乗られたら名乗り返すのがマナーというものだろう。一応、自己紹介らしき事をしてみるか…

「ボクは…」

 しまった。声が上擦った。
咳払いをして仕切り直す。

「甲本薙、一月十六日生まれ。山羊座のO型。19歳大学生…です。」

「はい、よくできました。」

 祐介は、にこやかに手元の盃を掲げて言った。

「では宜しくね。新しい首座さま?」

「首座…?ボクが!?」
「おや、聞いていないの?」

 形の良い眉を怪訝に寄り合わせると、祐介は、おっちゃんを振り仰いだ。

「どういう事ですか、孝之さん?」

「悪い…。実は未だその辺の事情までは、話してねぇんだよ。」

「話していない…?」

 嫌な沈黙が降りて来る。
苺だけが、我関せずといった風情で、ズズッと音を立てながらお茶を啜った。