祐介は、淡々とした口調で語った。

「千里さんの遺体に、目立った外傷は認められなかった。霊視もしてみたが…やはり、直接の死因は大量吐血に因る失血性ショックの可能性が高い。彼女は元々、肺と心臓に疾患があった様だね。…念の為、掛り付けだった病院に頼んでカルテを確認したら、案の定、過去に二回オペをしていたよ。」

「元々…病弱だったんだ。」

「あぁ。だがそのオペについて、ちょっと気になる事があってね。」

「気になる事?」

「二回目の心臓オペは、ある大学病院で行われていた。その時の執刀医が、心臓外科の客員教授だったんだよ。調べてみたら、聞き覚えのある名前が出てきた。」

「誰なの、それ?」

 異様に高揚する空気に、ボクは思わず息を飲む。祐介は、いつになく険しい表情で語った。

「執刀医の名前は九鬼棗(クキナツメ)。優秀な心臓外科医であり、世界的にも名の知れた医学博士なんだけど…彼には、もう一つ『裏の顔』がある。」

 話の流れから、答えが解ってしまった。

「九鬼も、鈴掛の行者ってこと?」

ボクの問掛けに、祐介は黙然と頷いた。

「…千里さんが、二度目のオペを受けたのは、玲一さんと再婚する一年前だ。それに、この写真の『痣』…」

 祐介が、一枚の写真を取り出して見せる。

「これは、千里さんの左大腿部に、僅かに残っていた皮膚片を拡大したモノだ。この縄状の痣を、良く見てごらん?何かに似てないかい?」

痣──?

言われて、改めて写真を凝視した。
黒ずんだ皮膚の上に、クッキリと浮かび上がった縄状の痣。

上部は丸みを帯び、下部に向かって、細く長くなっている。クネクネ波打つ姿は、ある生物を彷彿とさせた。この形は、まさか…?

「蛇?」

「そう、蛇だ。…これは、最初からあった痣じゃない。《呪い》の『下地』として、後から付けられた物だろう。」

…祐介の話では。

強い悪霊を『人』に憑依させる時、魂に、同じ属性の『下地』を作ってやると、霊との完全同化が早くなるらしい。