徐ろに身を乗り出すと、周囲に聞こえない様、細心の注意を払って、ボクは彼に耳打ちする。

「あのさ。あれは誤解だから。」
「何の話だ?」
「ほら、篝の部屋で…ボクらが…」

 恥を忍んでそう言い掛けると、一慶は思い出した様にパッと顔を上げた。

「あぁ…はいはい、あれね。安心しろ、俺は口が硬いからな。お前と篝が道ならぬ仲だなんて、誰にも言わないよ。」

「だから、それが誤解なんだってば!」
「じゃあ、そういう事にしといてやる。」
「しっ、しといてやるって…!」

「性の嗜好は個人の自由だからな。お前等の秘密は守るから、気に病むな。」

 ポンポンと、景気好く頭を叩かれる。
相変わらず此方を見ようともしない。
ボクは、ついカッとなって叫んだ。

「だから違うって言っているだろう!!」

 その途端、ハタと周りの視線に気付く。皆が度胆を抜かれた様に、ボクを見ていた。

「どうしたの、薙?大きな声出して??」
「な…何でもないよ、遥。」
「何でもない様には見えないけど…?」

「本当に何でもないんだ。き、緊張を解そうと思って…ちょっと発声練習を…」

「発声練習?? ──ふぅん?」

 笑って誤魔化すボクを見て怪訝に首を傾げると、遥はメイクボックスを片付ける為に席を立った。

微妙な空気の中、一慶がぷっと吹き出す。

「お前、本当にからかい甲斐があるな。」

 かっ、からかっていた…??
あんなに大笑いして、酷い!

「笑い過ぎだよ、一慶!」

 腹を抱え涙を流して大笑する彼を、ボクは拳でポカポカ叩いた。

「痛っ…!! 痛いって、やめろ、こら!女の癖にグーで殴るな、グーで!」

「やだ!いつもいつも、からかってばかりで!!今日こそは許さないっ!」

 思い切り拳を振り下ろした…その時だった。攻撃を避けようとして腕を翳した一慶の手から、写真が一枚ハラリと落ちた。

拾い上げてみると、何やら得体の知れない物が写っている。

ボクは思わず首を傾げた。

「これ…何?」