何やら雲行きが怪しくなって来たので、ボクは、おっちゃんに話題を振った。

「おっちゃん。二日酔いは大丈夫?」

 おっちゃんは、のろのろと顔を上げると、ボクを見て作り笑いを浮かべる。

「お~…最悪だぜ~。祐介に癒霊を施して貰ったから…何とか保(モ)つだろうがな。」

「二日酔いも、慰霊で治せるの?」

 驚いて振り向くと、祐介は、呆れた様に溜め息を吐いた。

「あまりやらないけどね。今日のところは止むを得ず…」

そう言って、肩をヒョイと竦める。

そうだろう、そうだろう。
二日酔い如きで、いちいち慰霊を施していては、癒者の身が保たない。

 そもそも六星一座の連中は、どいつもこいつも酒量が過ぎるのだ。甲本家で行われる大事な式典なのに、肝心のホスト役が二日酔いで使い物にならないんじゃあ、《総元締め》として示しが付かない。

「おっちゃん、ペナルティね。後で奢って貰うよ?前沢牛のサーロインが良いな。」

「…お~、解った…」

 判断力が低下しているのか…おっちゃんは早速、ボクの冗談を真に受けている。

これは、本格的に危ない状況だ。
首座代行が、こうもあっさり担がれて良いのだろうか?

 そんなボクの心配を他所に、遥などは『おっしゃ、前沢牛!』と叫んで、ガッツポーズを決めている。今更、冗談だとは言えない空気だ。

…まぁいいか。折角だから奢って貰おう。

 気が付けば。いつもと変わらない遣り取りの中で、ボクの緊張もすっかり解れていた。

その流れで、然り気無く一慶の隣に座る。
式典が始まる前に、彼には、どうしても言って措かなくてはならない事があるのだ。

「一慶。」
「んー…」

 気の無い返事が返って来るだけで、彼は此方を見ようともしない。

「大事な話があるんだ。」
「ふぅん、何??」

 思い切って切り出したのに、相変わらずの反応だ。

咥え煙草の一慶は、数枚の写真を手に取って、熱心に見入っている。ボクの話など、二の次三の次とでも言わんばかりだ。

 くそぅ…負けるもんか。