「良いよ、目を開けてみて。」

 ゆっくり見開いた視線の先に、上品な手鏡が掲げられる。

鏡に映った泣き顔の自分──その中に。
ボクは、明らかな変化を発見した。
露わにした耳元を、神聖な煌めきが飾っている。

「…これ…?」

 そっと触れた両の耳朶には、大粒のダイヤモンドのピアスが燦然と輝いていた。

2カラットはあるだろうか。

定番のブリリアントカットに、プラチナのポストとキャッチ。透明な輝きとプラチナが相俟って、まるで星の様だった。

「遥、これは…?」

「首座就任のプレゼント。本当は、もっとムードのある渡し方を考えていたんだけど。薙の泣き顔が可愛くて…つい、ね。」

「───。」

 驚きのあまり、上手く言葉が紡げない。
すると遥は、照れ臭そうに鼻の横を掻いて言った。

「この前、髪を切った時にね?薙の耳に、ピアス・ホールが空いているのを見付けちゃって…それから、ずっと考えていたんだ。無事に『この日』を迎えられたら、絶対プレゼントしようって。」

「遥…」

 鏡越しに見上げれば、遥が優しく微笑んでいる。その笑顔に触れた途端、漸く、素直なお礼の気持ちが迸り出た。

「…ありがとう、遥。とても嬉しい…。こんな凄いプレゼント、生まれて初めて貰った。」

「喜んで貰えた?」
「それはもう…勿論。」

「良かった。思っていた通り、良く似合っているよ。知ってる?ダイヤモンドはね。別名を『金剛石』って言うんだ。」

「金剛石(コンゴウセキ)?」

 ボクは首を傾げた。

モース硬度10のダイヤモンドは、地球上で最も固い天然石だと言われている。

『金剛』とはまた、何とも勇ましく武骨な響きだが──同時に、ダイヤモンドの特性を良く表した言葉だとも思った。