堪えきれず伏せた顔を、遥の両手がそっと挟んで上向かせる。

「ごめん。泣かせるつもりじゃなかったのに…」

ボクは、無言で首を横に振った。
今、何か一言でも話そうものなら、声を挙げて泣いてしまいそうだった。

 遥は言う。

「あのね、薙?人には各々、自分のスタイルっていうものがあると思うんだ。誰かの真似なんてしなくて良い。…以前、そう言ったよね?忘れちゃった??」

 ボクは、また頭を振る。
忘れる筈など無い。良く覚えている。
ボクは、遥のその言葉で救われたのだから。

 今にも漏れそうな嗚咽を堪えようとして、きつく唇を噛み締めると、遥は少し困った様に笑って言う。

「焦らないで。薙には、薙にしか出来ない事が沢山あるよ。その為に、当主になるんだろう?独りで抱え込む事なんてない。俺達が支えるから、安心して、首座の印証を承けておいで?」

 頷いた途端、堪え切れなかった涙が一滴流れ落ちた。遥の細い指が、それをそっと掬い取る。

「よし!泣き止むおまじないをしてあげる。少しの間、目を閉じていてくれる?」

「目を?」
「ほら、早く。」

 遥があまりに急かすから、ボクは仕方なく目を閉じる。

何をするのだろう?

ジッと身を固めていると、遥は、ボクの右の耳朶を優しく引っ張った。 ヒヤリと冷たい物が肌に触れ…直ぐに、左側にも同じ感覚があった。

…これは、もしかして…