暫しの逡巡の後…。
ボクは思い切って、苺と紫の件を伝えてみた。
一頻り話し終わると、遥は納得した様に頷いて…

「苺が自分から、その話に触れたのは、あの子なりに、過去を吹っ切った証拠だと思うよ?」

「そう…なのかな?」

「うん。そうじゃなきゃ、自分からは絶対に話さない。苺は、ちょっと可哀想な子だったからね。」

 遥の声が、ふと暗く沈む。
それから徐ろに、苺の生い立ちを話してくれた。

 ──苺の母・葉子(ハコ)は、ボクの親父の実妹で、おっちゃんにとっては姉に当たる。つまり、ボクの叔母である。

厳格な仕来たりを嫌って甲本家を飛び出し、裟婆世界で生きる道を選んだ、自由奔放な女性だ。

 そうして、十八歳で家を出た叔母は、就職先の自動車修理工場で整備士をしていた小椋真一と出逢い、意気投合。

間も無く、一子・苺(マイ)を授かった。

 家族三人の暮らしは、質素ながら祝福と愛に充ちていたと言う。だが…細やかな幸せは、ある日唐突に壊れてしまった。

葉子叔母が、くも膜下出血で倒れ、そのまま還らぬ人となったのである。

 ──数年後。
父・真一は、再婚して子供を二人もうけた。
だがそれは、苺にとって、苛酷な日々の始まりでもあったのだ。