「そう言えばさ。烈火が《継承式》を挙げた時は、派手だったよなぁ。」

 遥が、当時を思い出す様に腕を組んで目を閉じた。好奇心に駆られて、ボクは身を乗り出す。

「烈火の継承式って、いつだったの?」

「三年前よ。アイツさ、あのツンツン頭で、虎の刺繍を施した袴を履いたの。赤い髪に、真紅の紋付き袴よ?とても、堅気にゃ見えなかったわ。」

 ぅわ。何だか想像が着く…。

「でしょう?? まぁ、確かに派手だったけれど…アイツの父親が、討伐で亡くなった直後の継承式だったからね。アタシ達も、祝うに祝えない感じだったわ。」

 複雑な顔で嘆息する苺。
すると遥が、白い襷(タスキ)の端を口に咥えながら、会話に割り込んだ。

「篝は去年だっけ?」
「えぇ。まだ十三歳だったわね。」

 苺が神妙に相槌を打つと、遥は、慣れた仕草で襷掛けをしながら続けた。

「蔡場家は大変だったんだ。先代が、脳梗塞で急に亡くなられてね。討伐の最中だったから、世代交代も慌ただしかった。若い当主で心配もされていたけれど…篝は立派だったよ。確(シッカ)り式典を消化(コナ)していた。」

「そう、か…。皆、色んなものを乗り越えて、当主を継承したんだね。」

 感慨深く呟くと、苺がポンと肩を叩いて言った。

「アンタだって同じでしょう?皆が乗り越えてきた道だもの、きちっと決めてよね。言って措くけど、首座の継承は、また一段と荘厳だわよ??」

「うん、頑張る。」

「そうそう、その意気よ。じゃあ、アタシも着替えて来るわ。ハルちゃん、後は頼んだね?」

「了解。苺も急いだ方が良いよ。もう皆集まっているから。」

「…もう来ているの。早いわね。」

 遥に促された苺は、声のトーンを僅かに落として呟きながら退出した。

 紫も、来ているだろうか?
何故だか、ボクまでソワソワしてしまう。

 すると──

「…よく眠れなかったんだって?」

 気も漫(ソゾ)ろなボクの注意を向けさせる様に、遥が然り気無く訊ねた。

「どうしたの、何か悩み事?? 良かったら話してみない?独りで溜め込むのは良くないよ。」

そう言う彼の手は、片時も止まる事なく、ボクの顔にメイクを施していく。