着附けが終わると、当主控室に、メイクボックスを提げた遥が現れた。その姿を一目見て、ボクは思わず息を飲んでしまう。

 トレードマークだったフワフワの髪は、黒く艶めくストレートヘアに変わっていた。それに──

「遥…和装、似合う!」

「え、そう?へへ、ありがと。薙にそう言って貰えるのが一番嬉しいな。これは《金の星》の正装なんだ。」

 遥は、群青の色紋付に、鸞(ラン)と呼ばれる霊鳥が描かれた銀灰色の袴を履いていた。真っ直ぐな髪が、群青の長着の肩にサラリと掛かる様は、何やら妖艶ですらある。

 言葉も無く見詰めていると、遥が珍しく照れ臭そうに笑った。

「そんなに見詰められると、穴が空いちゃうよ。俺なんかより薙の方が、断然綺麗だ。最高に似合っている!」

「…当たり前でしょ。誰が用意したと思ってんのよ?」

 ツンと顎を聳やかして言い放つ苺。
今日の衣装は、彼女渾身の見立てなのだそうだ。

 改めて、姿見に映った自分を眺めてみる。自信満々に宣言するだけあって、苺好みの煌びやかな一品だが…流石に、ちょっと派手だなと思った。

 群青に金ラメが散った羽二重の長着…。
左肩から右胸に掛けて、五色の鳳凰が、向き合う様に染め抜かれている。

首座を表す『鳳凰』の柄は、確かに豪華だが…何処と無く、演歌歌手のステージ衣装を彷彿とさせた。

「鳳凰は、本来五色なのよ。雌雄二羽で対になる霊鳥で、鳳(ホウ)が雄、凰(オウ)が雌ね。《風の星》の象徴である麒麟も同じよ。麒(キ)が雄で、麟(リン)が雌。」

 へぇ…それは知らなかった。
なかなか興味深い『聖獣トリビア』である。

「そうでしょう?良く覚えて措きなさい、薙。《金の星》の象徴である鸞は、鳳凰よりやや格下の霊鳥なの。鳳凰は、霊鳥族の頭領。だから、首座のシンボルとされているのよ。」

 仕来たりに詳しい苺に依れば──。
各家の正装は、色とシンボルで見分けが付く様になっているらしい。

金の星が、群青に鸞。
火の星は、紅に虎。
水の星は、浅葱色に龍。
風の星は、鬱金色に麒麟。
土の星は、漆黒に獅子。
木の星は、萌黄色に蝶。

 特別な式典がある時は、各家の『色』と『象徴』を纏うのが一座の倣わしなのだ。