それは──。聞いているだけで、自分の心まで切り刻まれる様な話だった。

人格を全否定され続けた挙げ句、生きる事に絶望した苺は、そうしてどんどん荒んでいった。

 だけど『彼女』が悪いのではない。
女の子に生まれていたなら、そんな思いをせずに済んだ筈だ。

あまりにも不幸な、出生の『間違い』。
ボクには、苺を咎める事など出来ない。

「そんなアタシを見兼ねた伸ちゃんが、この屋敷に置いてくれたの…。武術も法術も、直々に教えてくれた。最初にアタシを、『いちご』って呼んだのも伸ちゃんよ。そうやって、アタシに立ち直る切っ掛けをくれた…。だから凄く感謝しているの。伸ちゃんは、アタシの命の恩人なんだ。」

 親父が、そんな事を?
だから、苺は熱狂的に親父を支持しているのか…。

 バラバラだったパズルのピースが次々に埋まって、『小椋苺』という、ひとつの『絵』を作り上げて行く。

苺を、孤独の淵から救ったのは親父だった。ボクは、そんな事も知らずに、彼女と関わっていたのだ。

「紫に会ったのも、丁度その頃よ。あの子、夏休みを利用して、沙弥(シャミ)修行に来ていたの。」

「沙弥修行って?」