一喝されて口を噤むと、苺の盛大な溜め息が聞こえた。

「別に、どう思われても結構よ。あの時は二人とも真剣だったの、子供なりにね。」

「…うん。確かに驚いたけれど、悪い事だとは思わないよ?それに…紫、寂しがっていた。どうして逃げちゃったの?」

「どうしてって…勿論、動揺したからに決まっているじゃない。昔の男にバッタリ出会したら、誰だって狼狽えるでしょ?」

昔の男…。
何やら妙に艶かしい言葉だ。

「何よ、『艶かしい』って?」
「あ、いや──ごめん。」

 冷たい一瞥を投げると、苺は呆れた様に小さく溜め息を吐いた。それから、ポツリポツリと昔語りを始める。

「…『性同一性障害』って聞いた事あるでしょ?アタシ、それなの。最初に自覚したのは、小学三年生くらいの頃かな。プールの授業なんて地獄だったわ。」

 仕草も好みも、言葉使いも──。

全てが明らかに他の男の子と違っていた苺は、その事で、陰湿なイジメに合っていた。

「自殺未遂に登校拒否に、家出。金が無くなったら男と寝て…ラブホに泊まったり、お金貰ったり…。知らない男の部屋に、監禁された事もあった。中学二年で家に連れ戻されるまで、ずっとそんな生活をしていたの。」