今日も東の対屋に、四天衆が集まっている。だが…食事中も、ボクは終始落ち着かなかった。

何しろ、大きな座卓の斜め向かいには苺が座っている。当人は何食わぬ顔で、朝食をパクついているけれど…

「…もう駄目…気合いが続かない…。」

 思わず呟いた言葉に、隣席の遥が驚いて振り向いた。

「どうしたの、薙??真っ青だよ!?」
「あ、え…と。き、緊張しちゃって…。」

 『あはは』と笑って誤魔化した途端、室内がシンと静まり反った。

「お前さぁ…」

一慶が、鼻白んだ顔で目を細める。

「朝飯ぐらい、ちゃんと食えよ。さっきから、箸で大根突ついてばかりじゃねぇか。その大根が一体お前に何をした?可哀想に、虐め過ぎだろう。」

 言われて、ふと視線を落とすと、小鉢の中で『ふろふき大根』が滅茶苦茶に潰れていた…。

「薙…もしかして、寝不足なんじゃない?お肌が荒れているよ。隈も出来ている。」

 遥まで、そんな事を言い始める。

「朝から食欲不振というのは見逃せないな。何か悩み事でもあるのかい?」

 立て続けに、祐介が核心を突いて来たので、ボクは動揺のあまり、箸を落としてしまった。

「ちょっと…何やってんのよ?幾ら何でもテンパり過ぎじゃない?!」

 苺が、冷たい一蔑を投げて来る。
誰の所為でこうなったと思っているんだ?!

怨みがましく見返した途端、苺の顔からスッと表情が消えた。

 …しまった。
『彼女』は、天解のエキスパートだ。
今の一瞬で、挙動不審の原因がバレたかも知れない。

 ──案の定。着物の着附けの時に、キッパリそれを指摘された。

「アンタさ…昨日、紫から聞いたでしょ?アタシ達の関係。」

 淡々とした様子で、苺が訊ねる。
今更嘘を吐いても仕方が無いので、素直に『うん』と認めた。

「そんな事だろうと思ったわ。」

 そう呟くなり、苺はボクの嬬袢(ジュバン)の紐を、ギュッと締めた。

「…苦しいよ、苺姐さん。」
「我慢しなさい!」

 …恐い。目が殺気立っている。