「ち、ちょっと薙、大丈夫?寒いから中に入ろう、ね??」

 労る紫の言葉に、ボクは無言で頷いた。

肩を抱かれる様にして屋敷に入ると…程無く、控え室で待機していた氷見が、血相を変えて駆け付けて来る。

 …そうして。ボクは急遽、帰宅の途に着いた。

内心ほっとしながらも、次々に押し寄せる雑多な思念に翻弄されて、なかなか気持ちが鎮まらない。

 …ふと。これからの事が頭を過り、漠然とした不安に襲われた。

 明日は、ボクの着任式。
一通りの作法は習ったが、やはり心配だ。
付け焼き刃の所作で大丈夫だろうか?

本当なら、もう一度お浚いをして措きたい處ろだが、今は一刻も早く布団を被って眠りたかった。

 もう…何も考えたくない。
蓄積した疲労が、心地好い眠りに変わる事を念じて、ボクはギュッと目を瞑った。