それは、正直な感想だった。

白い小さな顔に黒目がちの大きな瞳。
着物の色と同じ漆黒の短髪が、ぬばたまの夜に溶けてしまいそうだ。

 闇の支配者──黄泉の番人、向坂紫。
もう…成長を止めた小さな男の子じゃない。

彼の変化を、改めて反芻していると、不意に紫が語り始めた。

「黒は、無と混沌を意味しているんだ。人は皆、無から生まれて、最期は、無に還って逝く…その虚無を表す漆黒が、向坂家の『色』なんだ。」

 そうして密着していた体を、静かに離す。

「薙も、良く似合っているよ。白い菊花模様が秋らしいね、京友禅かな?綺麗な着物だね。」

「えーと…和装に詳しくないから、良く解らないんだけれど。苺が選んでくれたんだ。」

「マイちゃんが?」

 刹那、紫の顔が曇った。

「マイちゃん…どうして、逃げちゃったんだろう?久し振りに、ゆっくり話がしたかったのに。」

 ぽつりと呟いて視線を落とした紫は、今にも泣き出しそうな顔をしている。そうして、やおら突拍子も無い事を言い出した。

「…俺達…付き合っていたんだ。」

 ───はい?

今…物凄い事を、さらりと言われた気がする。
だが、訊き返して確認するのが怖い。
『付き合っていた』とは、どういう事だ??
正しい意味を理解した上で言っているのか?

 紫は男の子で、苺も…以前は男の子で。
その二人が『付き合っていた』、と──??

「…それ、いつの話?」

「俺が小学六年の時。マイちゃんは、中学二年生で、髪もまだ短くて…『男の子』の格好をしていた。」

 し、小学生───っ!?

「二人は昔から仲が好かったんだね?」

 単に、それだけの意味であって欲しいと願いながら、わざと明るい口調て訊ねてみる。すると紫は、カクンと首を傾げて─…

「うーん。仲が好い…と言うか。普通に恋愛関係だったけど?」

…いや。それは、あまり『普通』じゃない。

衝撃のカミングアウトに、ボクは頭が真っ白になった。どうにか事情を理解しようと努力するのだが、思考が凍結して、それ以上働かない。