「…こうしていると安心出来るんだ。今日は少し頑張り過ぎちゃったから、ちょっとだけ充電させて?」

「あ、あはは…充電かぁ。一日中大変だったものね。お疲れ様。」

 紫の行動には、他意が無い。
それが解るだけに、ボクも拒まなかった。
いつもの癖で、背中をトントン叩く。
すると…

「駄目だなぁ、薙は…!」

 パッと顔を上げるや、紫は怒った様な顔で、ボクの眼を覗き込んだ。

「あのね、薙?ここは、キッパリ拒絶するところだよ?簡単に、男の手の内に入っちゃ駄目!!」

「え…だって、紫だし…。」
「俺、そんなに子供っぽい?」
「いや…決してそういう意味では…」

 紫の一人称が、『俺』に変わっている。

いつから?──そして。
何故ボクは怒られているのだろう??
様々な疑問が脳裡を掠めて、咄嗟に整理が付かない。

 すると。混乱するボクを見て、紫が苦笑混じりに溜め息を吐いた。

「──もう大丈夫なんだ、そんな事をしなくても。夜も、独りで眠れるしね。」

「ごめん…以後気を付けます…」

「うん。これからは、年相応に見て欲しいな。薙と同じ十九歳の男として。」

「そ、そうか…当主になったんだもんね。黒い着物も良く似合っている。」