「それで…亡くなった伯父さんの代わりに、遥が鍵島家を継ぐ事にしたの?」

「うん。俺には下に弟二人もいるしね。…鏑木家は、弟達に任せる事にした。」

「遥…。」
「もう、時間がないんだ。」

 自身に言い聞かせる様に呟くと、遥は不意に黙り込む。

『時間が無い』という言葉が、一体何を示しているのか…ボクには良く解っていた。

鍵爺は、もう…あまり長くは生きられない。
嫡子審議会の、あの日。鍵爺は、ボクらにその魂魄の全てを晒け出してくれた。

弱く儚く脈打つ心臓は病魔に蝕まれて、最早余命幾ばくも無い状態だった。

 外見以上に、病状は進んでいる。
今は只、『六星一座を護りたい』という矜持だけで、命を保っている感じがした。

遥が突然、鍵島姓を名乗る決意をしたのは、きっとその事があったからなのだろう。

「…だからね。」

無理に笑顔を作って、遥がボクを見る。

「だから薙に見て貰いたかったんだ。俺の生まれ育った、この家を。俺が、鍵島遥になる前に知っていて欲しかった…。」

「…遥。」

それきり、会話が途絶えてしまう。

遥が育った大豪邸…
ゆったりと流れる時間は宛ら、彼の旅立ちを惜しんでいる様だった。