「鈴掛一門には、腕利きの《蛇霊遣い》がいる。巳美春臣(ミヨシハルオミ)っていうんだけど。知っている?」

ボクは、ふるふると首を横に振った。

…初めて聞く名前だ。
鈴掛一門は闇の結社だから、名を知られているのは幹部だけだと聞いている。

「巳美は鈴掛一門の頭領補佐だ。若いけど、強力な術者だよ。鈴掛行者は、蛇霊遣いが多いからね。今度の《薬子》の一件も、巳美が絡んでいる可能性は高いと思う。」

「そうなんだ…。」

 初めて知った『幹部』の名前に、ボクは慄然(リツゼン)となった。それまでは何処か曖昧模糊とした印象しか持てなかったが、幹部の名前を明かされて、俄(ニワ)かに現実味が増した気がする。

 遥は、ふと睫毛を伏せて言った。

「そいつにね、殺されたんだよ。」
「伯父さんが?」

「うん、多分ね。証拠は無いけれど…伯父貴の死には、蛇霊が絡んでいる。」

「そう…」

「俺さ、伯父貴が好きだったんだ。だからかな?未(イマ)だに釈然としないんだよ。伯父ほどの行者が何故?ってね。あんな死に方は、納得出来ない。」

 遥の瞳が、剣呑な光を帯びる。
こんな彼を見るのは、初めてだ。
行き場の無い怒りを、必死に抑えている様に見える。