それからボク等は、二人きりで優雅なティータイムを楽しんだ。簡易化された、英国式アフタヌーンティーである。

遥自ら供するペストリーに舌鼓を打ち、勧められた紅茶を一口含んだ──その時。

突然、遥が妙な事を言い始めた。

「実は俺…今日でこの家と『お別れ』なんだ。」

「え!?それ、どういう意味??」

「俺、鍵島家の養子になるんだよ。」

「よ、養子っ!?」

 危うく紅茶を噴き出すところだった。

養子…養子とは??──まさか、婿養子に?

「遥、結婚するの!?」

「まさか、違うよ。鍵爺の養子になるんだ。」

「え?」

 それはそれで驚く。混乱するボクに、遥は、苦笑とも自嘲とも付かぬ笑みを口元に浮かべて言った。

「…養子の件については、以前から考えていた事なんだ。ずっと先延ばしにしていたけれど…漸く決心が付いた。鍵爺の跡を継いで、正式に《鍵島流》の宗家になる。その為の養子縁組だよ。鍵爺から、奥義を伝授して貰うんだけど…その前に、薙と同じく《百日行》に入るんだ。」

「遥も?」

「あぁ。山籠もりはしないけれどね。鍵爺の屋敷で行に入るんだ。…で、そのまま、養子縁組して鍵島の籍に入る。」

「でも養子縁組って…。奥義の伝授って、そこまでしないといけないものなの??」

「いや。これは、俺の意識の問題。」

 そう言うと、遥はニッコリ笑った。

「鍵島家には跡取りが在(イ)ないんだ。本当は、伯父貴が継承する筈だったんだけど…二年前の討伐で、亡くなったからね。」

「亡くなった…?」

「うん。まだ四十二歳だった…厄年だね。伯父貴は運が無かったんだ。」

 当時を回想しながら、遥はポツリポツリと語り始めた。