真っ赤なフィアット『バルケッタ』が、秋色に色付く街並みを駆け抜ける。

全開にしたオープントップから、晴れ渡る高空が見えていた。少し肌寒いけれど…空気が澄んでいて、気持ちが好い。

 銀杏並木の街を抜け、そのまま高台の住宅地へと、車は向かう。

それにしても派手な車だ。
街中の視線を集めている。

 流線形の真っ赤なボディ。
2シータの狭い車内は、密着度100%だ。
今にも肩が触れそうな距離に遥がいる。

 左ハンドルを片手で器用に取り回す横顔は、いつになく男らしくて…何やら、落ち着かない気分だ。

真っ直ぐ前に向けられた視線も、マニュアルのギアを滑らかにシフトチェンジする鮮やかな手捌きも、いつもとは違う遥が垣間見えて、思わず目を奪われる。

 …そう云えば。
突飛な言動に振り回されて忘れがちだが、彼もかなりの美形なのだった。

「何処に行くの、遥?そろそろ教えてよ。」
「うーん。どうしようかなぁ…。」

 遥は、のらりくらりと質問をはぐらかして、愉しそうに笑う。

終始ご機嫌な様子だが、一体何処に向かっているのやら。

 スウスウと風通しの好い足元を気にしながら、ボクは忙(セワ)しく辺りを見回していた。