その時だった。

「薙、いるか?」

スラリと襖が開いて、部屋に一慶が入って来た。

「遥が探して…」

そう言い掛けたまま、岩の様に固まってしまう。

 その時、ボクは…。
篝に抱き付かれた拍子にバランスを失い、彼女を布団に押し倒す様な姿勢になっていた。

最悪な事に。篝の寝間着は、大きく裾が捲れ上がり、白い脹脛(フクラハギ)が露わになっている。

しどけなく乱れた互いの服が、艶かしいムードを醸し出して…女同志で睦み合っている様に見えたとしても、全く不思議じゃなかった。

 一慶の顔から、表情が消える。

……………。
……………。
短い沈黙の後。

「悪い、邪魔したな。」

 そう言うなり、一慶はクルリと踵を返した。ボクは、慌て彼を引き留める。

「ち、違っ…これは、その!ちょ…誤解だよ、違うんだってば!一慶、待って──待ってよ!!」

 必死で呼び止めたけれど…
彼は、一度も振り返る事無く、無言で部屋を出て行ってしまった。

「…そんな馬鹿な…」

 ピタリと閉ざされた部屋の戸を、ボクはただ呆然と見詰めるしかなかった…。