六星行者は、何度も何度も百日行を重ねる事で、より強力な行神力を身に付けていく。

ボクがこれから臨むのは、その最も基盤となる下品行(ゲボンノギョウ)と言われるものだ。

「今までずっと、その為の準備を進めていたんだ。お陰で、一番大変な時に、お前の側に居てやれなかったな。悪かった。」

 申し訳なさそうに頭を下げると…。
おっちゃんは、ポンとボクの頭を叩いた。
最近留守がちだったのは、こうした理由からだったのだ。

 僕の為に、修行の細かいカリキュラムを段取りしてくれた、おっちゃん。その傍ら、《裏一座》の立ち上げも進めていたのだから多忙な訳である。

「でな?今日は細やかながら、その御詫びの《昼食会》を企画した。お前の好きそうなモンばかり用意したんだぜ?柴さんが、いつにも増して腕を奮ってくれたからな。遠慮しねぇで思いっ切り食え!…な?!」

 そうか…
それで皆、料理に手を付けなかったんだ。

「おっちゃん、有難う。でもボク、一人でこんなに食べられないよ。美味しいものは皆で食べた方が、もっと美味しくなると思う。」

 そう言うと、おっちゃんの目がジワリと潤んだ。

「薙…お前、本当に良い子に育ったな。」

獣染みた髭を擦り付けながら、おっちゃんは感無量の涙を溜めて、ボクをガシッと抱き締める。

苦しいけれど、まさか突き飛ばす訳にもいかず…ボクは、おっちゃんの為すがまま、熱い抱擁に耐えた。

 こういうストレートな愛情表現は、正直、擽ったい。ボクの親父とは正反対だ。

 だけど、嬉しい。
解り易い愛情も、解り難い愛情も、向けられる思いに違いは無いのだ…きっと。

 今は亡き、無口な親父…。
シャイだから、言葉も態度も素っ気無かった。
だけどもし…ボクの継承式に参席してくれていたら、こんな風に強く温かく抱き締めてくれただろうか?

 少し感傷的になりながら…。

おっちゃん主催の『サプライズ昼食会』は、終始和やかな内に終わった。